煎茶道とは?
<喫茶の伝来>
中国の明代(1368年~1644年)には、文人たちによって、香り高い煎茶を喫しつつ、詩をうたい、絵を語り、美術工芸品を愛でるという文人趣味が生まれました。この明代の文人趣味(煎茶趣味)が日本の江戸時代初期に伝えられ、発展したのが日本の煎茶道の世界といわれています。その発端は明が滅亡して清となったとき、明末の高僧・隠元隆埼禅師(いんげんりゅうき/1592~1673年)が日本に渡来(1654年)、京都宇治に黄檗山万福寺(おうばくさんまんぷくじ)を開山したことからはじまります。臨済宗の一派である黄檗宗は、当時の停滞した日本の仏教界に新しい風を吹きこみ、その思想とともに、煎茶の喫茶法と文人趣味をもたらしたのです。
<日本での展開-煎茶の祖>
このとき伝来された煎茶趣味を日本の文化風土の中で発展させる一つの方向性を示したのが、後に日本における煎茶道の祖といわれる売茶翁高遊外(ばいさおうこうゆうがい)という禅僧でした。
売茶翁は延宝三年(1675~1763)に肥前佐賀蓮池の城外、道畹に生まれ(姓は柴山・幼名は菊泉)、12歳で出家、僧名・月海元昭として黄檗宗で修行に励みました。厳しい禅の修行の末、佐賀をあとに京都へ出て、享保20年(1735)初めて鴨川のほとりに茶店「通仙亭」を開き、茶を売ります。「人目を引く風変わりな翁が、珍しい煎茶器、珍しい煎じ方で茶をいれている」(『近世畸人伝』伴高蹊)―そんな風評に京洛の文人たちが集まりました。そして、「茶銭は黄金百鎰より半文銭までは、くれ次第、ただのみも勝手、ただよりはまけもうさず」と語る売茶翁に文人たちは拍手喝采します。
こうして売茶翁の煎茶は、文雅を伴う茶の精神運動、思想活動として、従来の茶の湯とは異なる文芸復興(ルネッサンス)をもたらし、古代の喫茶復興を新しい感覚で表現する煎茶趣味を生み出す端緒となったのです。
<文人たちと煎茶文化>
当時、売茶翁のあり方に真の風流を見出し、魅せられ集まった文人たち(伊藤若冲、池大雅、木村蒹霞堂、大枝流芳、大枝流芳、上田秋成、文人画家・田能村竹田、村瀬栲亭、青木木米、頼山陽など)が日本の煎茶道への道筋を築いていきました。
こうした人々に支えられ、やがて寛政(1789~1801)の頃から文化文政期(1804~30)以降、幕末にかけて煎茶文化は最盛期を迎えていきます。
<型の誕生、「道」の文化へ発展>
そして幕末から明治に向かう変革期には、政治権力に密着した保守的な教養としての茶の湯のあり方に対し、煎茶は文人などの草莽の士による文雅と社会性を備えた、革新的な茶文化として発展していきます。さらに煎茶は、旧幕府の武士社会の崩壊と共に、茶の湯を超える勢いを見せるのです。やがて文人余技的なものに終わらずに、体系的な道の文化へと形成されていく、すなわち煎茶の新たな大衆化、礼式化が進み、煎茶家元が誕生することになります。その代表的な初期の家元としては、田中鶴翁(1782年大坂の醸造元に生まれる)や、小川可進(1786年京都に生まれた御典医)があげられます。こうして煎茶は日本の「型」、「道」の文化、すなわち「煎茶道」として形成され、今日に至っているのです。
(参考文献:「煎茶便利帳」主婦の友社刊、平成12年)
<日本の茶道と煎茶道>
煎茶しか飲まないから「煎茶道」というのでしょうか?
「煎茶」という語は、
一つは、茶の種類の名称、飲料としての煎茶
二つ目に、葉茶を湯に浸して飲む、飲法としての煎茶
三つ目に、この飲法を基本に「型」をつくり道の文化「煎茶道」となった、流儀としての煎茶 という三つの語義を含んでいます。
一方、中国で茶文化が成立するのは8世紀唐代、盛唐から中唐の時期といわれていますが、唐代はお茶の葉を蒸して固めた団茶、宋代にはお茶の葉を蒸して乾燥させ粉にして湯にといて飲む抹茶、元から明代になると、熱を加えて乾燥したお茶の葉を煎じて飲む煎茶の飲法が中心でした。
したがって、日本の煎茶道とは、ちょうど明代の中国からもたらされた茶を煎じるという喫茶法が「煎茶」という名で定着し、作法や手前をともなう「煎茶道」となったといえます。ですから日本の緑茶の代表であるお茶の種類としての煎茶だけをお手前でいただくのではなく、他にも玉露や番茶、香煎、日本酒など、そのお茶、嗜好飲料に適する手法で、楽しく美味しくいただいています。
日本の茶道といえば、何を示しているのでしょうか?
日本人のみならず、海外でも多くの方々が日本の茶道といえば抹茶道だけを思い浮かべるかもしれません。ところが、日本における茶道とは、「茶の湯(抹茶道)」と「煎茶(道)」という、二つの種類があるのです。各々、明確に異なった茶の文化を形成しています。換言すると、抹茶道は茶禅一味という厳しい修行が求められる「和敬静寂」の世界、煎茶道は老荘思想とのつながりが強く、無為自然な自由な生き方を主張する「清風清雅」の世界を追求しているといえます。
文人華道とは?
<文人華のいわれ>
文人華とは、もともと中国の南宋時代(1127-1279)に端を発する南画の影響を受けて生まれた華道の様式です。当時、宮廷画家だけが嗜むものであった書画の分野に、詩人や文士、その他、風流を求める者が手軽に嗜むものとして、新しい画風の文人画が生まれました。やがて文人墨客が茶を味わうときに、閑雅、洒脱さを好みながら、文人画の趣旨にそって挿花したところから文人華が起こったといわれています。そこには風雅と機知、自然に対する思いやりがこめられているのです。
<文人とは?>
文人とは書画などの文事をよく行う東洋的な教養人、読書人のことで、文人墨客などともいう。日本の煎茶の世界では、煎茶趣味をはぐくんだ中国・明代の文人の理想像を文人とみなす。明代に理想とされた文人→老子・荘子の思想を中心とした儒教的教養を身につけた知識層の中で、琴・書・棋・画などの風流を愛した雅人。
<日本における文人華の由来>
江戸時代中~後期の文人儒学者・大枝流芳(おおえだりゅうほう)らが煎茶・文人華・香道などの書物を著し、後に影響を与え、華道にまで発展しました。他に田能村竹田(たのむらちくでん)などがいます。
<文人華と煎茶道>
煎茶道がお手前という五感を駆使させた行為(動)であるとするなら、文人華はその行為に呼応しながら、その茶に最もあう最小のかたち(静)として表されたものといえます。
「季節を盛る、言葉を盛る、心を盛る」のが清泉幽茗流の文人華道です。
お稽古の目的と効果
<お稽古とは?>
お稽古(鍛錬ディシプリン、プラクティス)とは、身体から入って精神をコントロールすること、つまり実際に型を習い、体と心を使って身体に刻む、身につけることといえます。その繰り返しを長く続けていきますと、人は不思議と精神の安定、心の静寂まで感じることができるのです。修行的な心身の鍛錬を積むお稽古あってこそ、日本の芸能、「道の文化」が成り立っているのです。
<お手前とは?>
煎茶道における「型」とは、茶の「手法」であり、「手の舞い」です。それは体を使う一種のスポーツのようなものともいえます(剣道、柔道、ヨガや野球にまで型があります)。宇宙の運行に従う最も合理的な自然の理にかなったお茶をいれる手順、それが「お手前」です。いわば先人達の智恵の凝縮がお手前という「型」になったのです。
<お稽古を通じて身につけるもの>
当流のお稽古では、日本の風習、冠婚葬祭や四季折々の行事、季節やお茶の種類などにあわせた様々なお手前を身につけ、日常生活で生かせるよう指導しております。和室で正座するばかりがお茶ではありません。洋風化した生活空間を積極的に活用して、テーブルや椅子でも行なっています。
煎茶道のお稽古は、心と体のバランスを保ちながら、感性を研ぎ澄まし、日常生活を豊かに演出する創造力を養うのです。そして何よりも世代をこえた人々との交流を通じて、お人への思いやりを育むことにもなるでしょう。
また、お稽古を通じて、総合的で理想的な人間のあり方を、あくまでも「生活者としての目線で」追求しているといえます。
清泉幽茗流 煎茶道・文人華道の魅力と効能
江戸時代から今日まで、なぜ煎茶道は長く受け継がれてきたのでしょうか?そこには何らかの魅力や得るものがあったからに違いありません。当流では特に以下の点をあげております。
●味覚の芸術(茶味のバリエーションの豊かさ)
なぜ普段、家でいれたお茶よりお手前でいれたお茶の方が美味しく感じるのでしょうか?それはそこに心があり、芸があるからです。つまり、美味しいお茶をいれようとする気持ちと美味しく頂こうという気持ち、主人と客の心の交流、「礼」と「心」があるからなのです。「心」とはわが身をけずる、手間ひまかける、あらたまるということでもあります。
●五感を養う
特に注目されにくい触覚を最大限に駆使した、人間とお茶とお道具とが助けあい、互いに生かしあおうとするのが煎茶道です。
●礼儀作法を自ずと身につける
お茶をいれる心遣いと無駄のない、流れるような所作は、その人をより魅力的にみせます。そして自然とマナー、エチケットの練習にもなります。
●お手前(茶の手法と型)を通じて先人達の残してくれた智恵と自然の理を知る
●お茶を通じたコミュニケーション、心のスポーツ
●お手前による精神の向上、修練は、適度な緊張感をもたらし、日常の意識からレベルアップさせてくれます
●日本の年中行事、風習を理解し、お茶と文人華で表現し、次世代につなげる
●豊かで物が溢れる時代、お道具に接しながら、華美にならず、物を大切にする
●お茶の3R
リラクゼーション(お手前の脳波〆派=瞑想、自分中心ではなく自らも意識せぬまま宇宙の動き(理)に従い波動を高める)
リハビリテーション(手と指、体をふんだんに使う。脳の活性化、五感のバランス)
レクレーション(お手前を茶芸、パフォーマンスととらえる。遊び心と表現力
煎茶道のお稽古内容
当流では、カリキュラムによって明文化し、テキストで補いながら、次の三つのお茶(コース)を柱としてお稽古しております。初歩の方には、とりくみやすい実用茶(暮らしのお茶)のコースからはじめて頂き、徐々に様々なお手前に触れていただきます。
また、急な海外赴任などで日本の伝統文化としてお伝えしたい方には、速習コースも設けております。
<実用茶コース/暮らしのお茶>(日常生活に活用できるお茶)
ふだん着のお茶。和室、洋室、テーブル、座卓、畳、どこでもできる気軽なお茶、美味しいお茶のいれ方、マナーの稽古。持ち運びが簡便なお道具を使い、日本の緑茶、玉露・煎茶・番茶などの特質を理解し、その手法を学ぶ。
<文人茶コース>(趣向茶、茶会用お茶)
書画、骨董を愛した風流な文人たちの世界をたどりながら、現代の良きサロン芸術を生み出すお茶。テーブル、座卓、畳、どこでも表現できる。個性的なお道具を用いることが多く、お酒のお手前などもある。パーティなどのテーブルセッティングやお客様のおもてなしにも活用できる。お手前の実技の他、茶会での演出法を理論的に学ぶ。
<格式茶コース>(修行的、儀礼茶)
煎茶の理念を求め、決められた約束を守りつつ明確な手順をふむお茶。厳粛な気持で、立ち居ふる舞いを美しく整え、精神性を養う。
その他
茶料理実習 お茶の葉を使ったヘルシーなお料理の実習
マナー実習 お茶の頂き方、お菓子の取り方、おじぎの仕方の習得
●各コースの終了期間は、月2回のお稽古の場合、約2~3年
●終了後は、各々講師の資格を取得でき、社会に出てそのコースの指導、活動ができます。
●全コース修了者は師範の資格を取得、すべてのコースの指導、数々の活動ができます。
文人華道のお稽古内容
当流では、次の三つを柱として、テキストで補いながら、文人華をお稽古しております。
<花型花/暮らしの花>(花々をより美しく鑑賞し、部屋をかざる)
定められた角度・長さをまもり、花と語りながら鋏使いに馴れる。玄関、床の間、棚などにかざる、他の流儀花と同じく花型を重んじる花。
<文人花>(主題のあるお花と盛物)
江戸時代からの中国南画の画題に基づいた古典雅題と現代の創作雅題とがある。花の他に果物、野菜などもあわせ盛る。
<格式花>(自然の法則を重んじる)
陰陽五行など天地の自然の法を少しの花で表現する。
●花型花から学び、全コース終了後は師範の資格を取得。指導、数々の活動ができます。
お稽古にかかる費用
入門が決まりましたら、入門料5,000円をいただきます。
お稽古のお月謝は、月1回のお稽古で3,000円~となっております。
子ども稽古は、1回1,500円~となっております。
入門前にお稽古に見学、参加してみたいという方に「どんなお稽古をしているのか、
ちょっと覗いてみてから考えたい」という方に、無料でお稽古に参加していただく機会をもうけております。ご希望の方は、こちらよりお申し込みください。
対応できるお稽古場を紹介させていただきます。